I wish





母ちゃんに大石と出かける事を言って急いでしたくして家を出たけど、ヤバイ・・・


遅刻しそう・・・30分って案外厳しいよな。

せっかくセットした髪の毛も、家からダッシュしたおかげでボサボサだし・・・

でも大石に会えるって思ったら、そんなの・・・まぁ多少気になるけど・・・いいんだ。

会えるだけで、一緒に過ごせるだけで・・・


逸る気持ちを抑えながら、俺は最後の角を曲がった。



「大石!!」



駅前はたくさんの人で溢れかえっているのに、待ち合わせしてる奴なんてたくさんいるのに、大石だけにスポットライトがあたってる様に直ぐに見つけられる。

そんな自分に俺やっぱ大石が好きなんだなって、改めて思い知らされてホントやんなっちゃうけど・・・

今は友達の顔作んなきゃな・・・

ずっと大石と一緒にいたいから、ちょっと苦しいけど俺頑張るよ。

俺は大石に駆け寄りながら、自分の心にもう一度言い聞かせた。


友達の顔だぞ・・・

絶対赤くなったりしちゃいけないんだぞ・・・



「お待たへ!!」



大石の前で呼吸を整えながら、大石を見るとバッチリ目が合ってしまった。

そして爽やかな顔で微笑まれた。



「英二」



うわっ・・・ヤバイ・・・顔がにやける・・・それに駄目だ顔が熱くなってきた・・

言い聞かせたばっかなのに・・・


急いで視線を逸らして、俺は顔が赤くなってるのをバレないように大石の横に移動した。



「さっさぁ早く行こうぜ!」

「あぁ。うん」



大石を促して駅へと向かって歩いて行く。


まだ顔の赤みが引かなくて、大石の顔もまともに見れないんだけど・・・・

このままだといけないよな・・・何か話題出さなきゃ。



「それよりさ大石。待ち合わせが30分後って厳しくなかった?

俺急いだけどギリギリだったよ」



別に待ち合わせ時間を決めた大石を責めてるわけじゃないんだけど、何か話題をふらなきゃって思ったら余計な事言っちゃった。



「あっごめん。1時間後の方が良かったかな?」



大石が申し訳なさそうな顔をしている。


う〜〜〜そんなつもりで言ったんじゃないのに・・・



「あっ!いや・・・別にそんな・・・いいんだけどさ」



だから俺は慌てて否定したんだけど、大石は更に落ち込んだ様な顔になってしまった。


俺・・・何やってんだろ・・・


ハァ・・と心の中で溜息をついて大石を見ると大石の口から思いがけない言葉が出てきた。



「ホントにごめん。俺は・・そのもう出かける準備出来てて・・・

少しでも早く英二に会いたくて・・・」

「えっ?」



うそ・・・・何・・・?



「あっ!あぁそうだ!英二あけましておめでとう!そういやまだ言ってなかったよな・・なっ?」



早く俺に会いたい・・・?

それって・・・?


驚いた顔で大石を見ると、大石は凄く動揺して真っ赤な顔で早口に新年の挨拶をした。

俺はそんな大石にどう答えていいのかわからなくて、取り敢えずおめでとうだけ口にした。



「えっ・・あっ・・うん。おめでとう」

「じゃあ英二今年も宜しくって事で・・俺切符買って来るから、ここで少しだけ待ってて」

「・・・うん」



真っ赤な顔をした大石が慌てて、切符を買いに行って、一人残された俺もたぶんきっと顔が赤い。



大石・・・

やめてよ・・・そんな事言うの・・・

そんなに動揺して、顔赤くして・・・

そんなの見たら俺誤解しちゃうじゃん。

大石も俺と同じぐらい会いたいって思ってくれてたのかなって・・・

大石も俺と同じ想いを抱いてくれてるのかなって・・・

そんな訳ないのに・・・

大石は優しいだけなのに・・・

友達の俺が退屈してるんじゃないかって気にかけてくれただけなのに・・

それだけなのに・・・

心の片隅に微かな期待を持ってしまいそうで・・・胸が苦しいよ



「英二!お待たせ。はい切符。じゃあ行こうか」



切符を買って戻って来た大石は、まだほんのり頬っぺたは赤く染まっていたけど

いつもの大石だった。

だから俺もチクチクする胸を大石に悟られないように、元気な俺を演じた。



「サンキュー大石!んじゃ行きますか!レッツゴー!!」
















電車に揺られながら他愛も無い話をして、ケラケラ笑いながらいつもの俺の調子が戻ってきた頃ようやく原宿に着いた。



「げっ!凄い人!!」



確かに駅に降り立った時から人が多いな・・・とは思ってたけど・・・

参道に入ると、人人人・・・・



「だから多いと思うよって言っただろ」



目を白黒させる俺を見て大石が苦笑する。



「言ってたけど・・・昼過ぎてるしさぁ・・少しは減ってるかなって・・わっ!」



ドンッと後ろの人にぶつかられて、前のめりになって危うくこけるとこだった。



「痛ぁ〜い・・・」

「大丈夫か英二?」



大石が慌てて俺の顔を覗きこむ、俺は俯きながら心の中で『クソ〜痛いじゃんか』と悪態をつきつつ、心配する大石に答える為に顔を上げた。



「大丈夫。だいじょ・・・」



へ?

顔を上げたのはいいけど・・・想像以上に大石の顔が至近距離にあって固まってしまった。



「だっ大丈夫なら良かった」



大石は目が合ったとたんに、覗き込んでた顔を上げてハハハ・・・と空笑いしている。


びびびび・・・びっくりした・・・・・

こんなに近くで目が合うなんて・・・初めてかも・・・

それに・・・もうあと10cm近かったら、大石の唇に俺の唇が・・・・


そう思っただけで、また顔が赤くなってくる。


ヤダヤダ・・・俺の馬鹿・・・

こんなにスグに顔赤くしてたら大石への気持ちがバレちゃうじゃん。

せっかくいつもの調子で話せてたのに・・・・



なかなか顔が上げらんない俺の背中を、大石がそっと押して前に歩くように促した。



「英二。止まっていたら危ないから」

「あっ・・・うん。ごめん」



大石に言われて、また人混みの中を黙々と歩いて行く。

人の波に沿ってゾロゾロと少しずつ前に・・・

だけど一旦タイミングを逃してしまった俺は顔の赤みが引いた後も大石に話かけれなくて

何だか気まずい雰囲気が流れていた。


こんなのやだなって思うのに・・・

顔赤くしたり、無言になったり・・・絶対俺、おかしく思われてるよな・・・

もし今日の事で大石に俺の気持ちバレて、この先一緒に過ごせない・・・

なんてなったらどうしょう・・・・

あぁ・・・二人で会うのって不味かったかな・・・

ここにみんながいてくれたら、不二がいてくれたら・・・

上手く誤魔化す事だって出来たかもしれないけど・・・

俺一人じゃ意識しすぎて上手く行かない。

二人で初詣に来れたのは凄く嬉しかったけど、ホントは二人だけでなんて・・・

来るべきじゃなかったのかもしれない。


胸の中が後悔という暗い気持ちに支配されて行く。



大石・・・

お願いだから俺の気持ちに気付かないで・・・



ぼんやりと前を歩く人の足元を観ながら、少しずつ前に進んでいく。

俺達は確実に本殿に近づいていた。






長い沈黙が続く中、それを破ったのは大石だった。



「英二は何で明治神宮に来たかったの?」



急に質問されて『えっ?』と顔を上げると、目があった大石は優しく微笑んでいた。



「あぁ。それは・・・チイ姉が観てたテレビに明治神宮が映ってたから・・・・

 面白そうかなって・・・」

「そっか」



テレビで見たのは本当

だけどホントは何処でも良かったんだ。

大石と少しでも長く一緒にいられれば・・・何処でも良かったんだ。

大石から目線を外して、前に並んでる人の背中を見つめる。

そんな俺に大石がまた明るく問いかけてきた。



「英二。明治神宮が全国で一番参拝客が多いって知ってた?」

「えっ?」



そうなんだ?

知らなかった・・・って少し驚いて大石を見ると、大石はおどけた感じで俺を見た。



「ここの神様は大変だよな」

「なんで?」

「だってみんなの願いを聞いて叶えてたら、あっという間に1年終わっちゃうだろ?」

「プッ・・・なんだよそれ?変なの?なに急にそんな事言ってんの?」



大石の発想に声を出して笑っていると、大石が安心したように微笑んだ。



「やっと笑った・・・」

「へ?」

「英二がずっと俯いて黙ってるから、ホントはさっきぶつかられた時に何処か痛めたんじゃないかな?って心配してたんだ」



大石・・・



「そんな・・・大丈夫だよ」

「うん。今の笑顔見て大丈夫って事はわかった」



お前優しすぎるよ・・・

そんなに優しくしないでよ・・・



「ご・・ごめん大石。その心配かけて・・」

「いいよ。それより英二。そろそろ本殿に着くから小銭用意した方がいいよ」

「あっ・・うん」



大石が財布を取り出している。

俺もそんな大石を見ながら財布を取り出した。



大石・・・そんなに優しいと俺、大石の優しさに甘えちゃうよ

お前の事好きなの、抑えきれなくなってきてるのに・・・

動揺してすぐに顔に出しちゃうのに・・・

大石に俺の想いがバレるの嫌だって思ってるのに・・・

それでも離れたくないって、ずっと側にいたいって・・・

大石・・・・






本殿前は本当に混み合ってて、賽銭を投げる人、祈る人、祈り終わって本殿を離れる人で そこはまさに戦場だった。



「英二大丈夫?」

「うん。大丈夫」



大石も俺もその人混みの中で、もみくちゃになってて『こんな中で祈れるの?』と思うぐらいだ。



「賽銭投げるよ」

「えっ?あっうん」



大石の言葉に俺は財布の中から取り出していた、105円を落とさないように握り締めた。


いつもなら、十分ご縁がありますようにって15円にするんだけど・・・

今日は特別奮発する。

100倍ご縁がありますように・・・

それでもまだ足りないかも知れないけど・・・

俺・・・決めた。


大石の行動一つ一つにすぐ動揺しちゃうけど・・・

それで大石に自分の気持ちがバレるのは嫌だって今も思ってるけど・・・

それでも側にいたい。

俺やっぱり大石が好きなんだ。

好きで好きで堪らない。

だから神様どうか忙しくても、俺の願い聞いて下さい。


俺は掌に握り込んでいたお金を賽銭箱へと投げ入れた。

賽銭は人垣を越えて、賽銭箱に吸い込まれていく。

それを見届けて俺は必死に手を合わせた。



『今年一年も変わらず大石の側にいられますように』



それだけでいいから・・・

それ以上は望まないから・・・

どうか大石の側にいさせて下さい。



ドンドンとぶつかられても必死にお願いして、目を明けると俺を守るように大石が側にいてくれた。



「ちゃんとお願い出来た?」

「えっ?あっ・うん。ありがとう・・っていうかごめん。ひょっとして守ってくれてた?」

「守るとか・・・そんな大した事じゃないけどね」


大石が照れたような笑いを浮かべる。



「ううん。それでも・・大石のお蔭でちゃんとお願い出来たよ」



たぶんきっと今もバレバレじゃんってぐらい顔が赤いと思う。

だけどそれでも一緒にいたい、この気持ちが一番だって事がわかったんだ。


俺は満面の笑みで大石を見上げた。



「ホントにありがとう」



大石はジッと俺の顔を見て、ハタと気付いたように顔をそむけた。

そむけた横顔が耳まで赤い。



「英二・・・その・・・ここ邪魔になるから、参道に戻ろう」

「うん。そうだね」



そう言って移動しようとした時に、後ろから流れ込んで来た奴らのせいで一瞬のうちに大石が見えなくなった。



「大石っ!」



どうしよう・・・

でもこのまま突っ立てる訳にもいかないし、取り敢えず参道に戻らなきゃ・・・

大石の姿が見えなくなって、すっかり不安になってしまった心を立て直して、移動しようとした時に、人混みの中から出てきた腕に手首を掴まれた。



「英二っ!」



大石は『スミマセン』と謝りながら、流れに逆らって俺の前に割り込んで来る。



「英二。大丈夫だった?」



今日何度目の大丈夫だろう?

大石の優しさが心に沁みる。



「うん。大丈夫」

「じゃあ行こうか」



大石は俺の手首を離すと、改めて俺の手を握った。



「えっ?大石?」

「本殿を過ぎて参道に出るまで、はぐれちゃいけないから」



真っ赤な顔でそう言った大石は、俺の手を握ったまま人混みの中を歩き始めた。



「うん。わかった」



俺は少し前を歩く大石の背中を見つめながら、大石の手を離さないようにしっかり握り返した。



大石・・・好きだよ

いつも気遣ってくれてありがとう

その優しさが友達としての優しさだったとしても、ホントに嬉しい。

俺さ大石の事好きって気持ち、たぶんきっと止める事は出来ないと思うけど・・・

頑張って胸の中に閉まっておくから・・・・

これからも友達として側にいさせて欲しい・・・大石の優しさに甘えさせて欲しい。

その為なら俺、どんな事でも頑張るよ。




だけど・・・それでもいつか俺の想いに気付いて、お前が俺の事嫌だっていうんなら

優しくしなくていいから・・・

俺、ちゃんとお前の側を離れるから・・・




その時までは、繋いだこの手の温もりを・・・

大石の温かさを・・・側で感じさせて




                                                                END






最後まで読んで下さってありがとうございますvv


これからも同じ大石と英二を書き続けていくので、1年生だったり2年生だったり

3年生だったりと片思いの時とラブラブと・・・行ったり来たりと混ざって行くと思いますが・・・

パズルのピースを埋める如く、最終的には全部繋がればいいな・・・と思ってますので

ついて来てもらえると嬉しいです。

2008.1.27